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歌手:桑田佳祐风格:歌词

「声に出して歌いたい日本文学」

作詞∶桑田佳祐

作曲∶桑田佳祐

歌∶桑田佳祐

▼『汚れつちまつた悲しみに……』 中原中也

汚れつちまつた悲しみに

今日も小雪の降りかかる

汚れつちまつた悲しみに

今日も風さへ吹きすぎる

たとへば狐の革袋(かはごろも)

小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは

なにのぞむなくねがふなく

倦怠(けだい)のうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみは

汚れつちまつた悲しみに

なすところもなく日は暮れる……

▼『智恵子抄』 高村光太郎

智恵子は東京に空が無いといふ、

ほんとの空が見たいといふ。

智恵子は東京に空が無いといふ、

私は驚いて空を見る。

桜若葉の間に在るのは、

切つても切れない

むかしなじみのきれいな空だ。

智恵子は遠くを見ながら言ふ。

阿多(あた)多羅山(たらやま)の上に

毎日出てゐる青い空が

智恵子のほんとの空だといふ。

あどけない空の話である。

▼『人間失格』 太宰治

恥(はじ)の多い生涯(しょうがい)を送ってきました。

自分には、人間の生活というものが、

見当つかないのです。

自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。

そこで考え出したのは、道化でした。

最後の求愛でした。

夕立ちが降った或(あ)る放課後、

「耳が痛い」と言う竹一を見ると、

ひどい耳だれで、

念入りに耳の掃除をしてやりました。人間、失格。

いまは自分には、幸福も不幸もありません。

自分はことし、二十七になります。

白髪がめっきりふえたので、

たいていの人から、四十以上に見られます。

子供相手の雑誌だけでなく、

駅売りの粗悪で卑狼(ひわい)な雑誌などに

汚いはだかの絵などを画いて、

画いていました。人間、失格。

▼『みだれ髪』 与謝野晶子

やは肌のあつき血潮(ちしほ)に

ふれも見でさびしからずや道を説く君

乳ぶさおさへ神秘(しんぴ)のとばりそ

とけりぬここなる花の紅(くれない)ぞ濃き

いとせめてもゆるがままに

もえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春

春みじかし何に不滅(ふめつ)の

命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

人の子の恋をもとむる

唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひ

▼『蜘蛛の糸』 芥川龍之介

ある日の事でございます。

御釈迦様(おしゃかさま)は極楽の

蓮池(はすいけ)のふちを、独りでぶらぶら

御歩きになっていらっしゃいました。

この極楽の蓮池の下は、

丁度地獄の底に当っておりますから、

水晶のような水を透き徹(とお)して、

三途(さんず)の河や針の山の景色(けしき)が、

丁度覗(のぞ)き眼鏡(めがね)を見るように、

はっきりと見えるのでございます。

地獄の底に、カンダタと

云う男が一人、蠢(うごめ)いている。

この男は、人を殺したり、悪事を働いた大泥坊、

それでもたった一つ、善(よ)い事

蜘蛛を殺さず助けてやったからでございます。

御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、

カンダタには蜘蛛を助けた

事があるのを御思い出しになりました。

この男を地獄から救い出してやろうと

御考えになりました。

▼『蟹工船』 小林多喜二

二人はデッキの手すりに寄りかかって、

蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、

海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。

蟹の生ッ臭いにおいと

人いきれのする「糞壷(くそつぼ)」の中に線香のかおりが、

香水か何かのように、ただよった……

諸君、とうとう来た!

長い間、長い間俺達は待っていた。

半殺しにされながらも、待っていた。今に見ろ、と。

しかし、とうとう来た。

俺達は力を合わせることだ。

俺達は仲間を裏切らないことだ。

彼奴等(あいつら)如(ごと)きをモミつぶすは、

虫ケラより容易(たやす)いことだ。

「おい、地獄さ行(え)ぐんだで!」

「ストライキだ。」

▼『たけくらべ』 樋ロー葉

何時(いつ)までも何時までも

人形と紙雛(あね)さまとをあひ手にして

飯事(ままごと)ばかりして居たらば

嘸(さぞ)かし嬉しき事ならんを、

何時までも何時までも

人形と紙雛さまとをあひ手にして

飯事ばかりして居たらば

嘸かし嬉しき事ならんを、

ゑゝ厭や厭や、大人に成るは厭やな事、

何故このやうに年をば取る、

最(も)う七月(なんつき)十月(とつき)、

一年も以前(もと)へ帰りたい

汚れつちまつた悲しみに

今日も小雪の降りかかる

汚れつちまつた悲しみに

今日も風さへ吹きすぎる

▼『一握の砂』 石川啄木

東海の小島(こじま)の磯(いそ)の白砂(しらすな)に

われ泣きぬれて 蟹(かに)とたはむる

いのちなき砂のかなしさよ

さらさらと 握れば指のあひだより落つ

こころよく 我にはたらく仕事あれ

それを仕遂(しと)げて死なむと思ふ

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ

花を買ひ来て

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ

花を買ひ来て 妻としたしむ

一握の砂

▼『吾輩は猫である』 夏目漱石

吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだ無い。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

ある穏やかな日に

大きな猫が前後不覚に寝ている。

彼は純粋の黒猫である。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

▼『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治

銀河ステーンョン……

ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいで

なんにも云えずに博士(はかせ)の前をはなれて

早くお母さんに牛乳を持って行って

お父さんの帰ることを知らせようと思うと

もう一目散に河原を街の方へ走りました。

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